楽園 上下

ただ犯罪を解決するだけ、謎を解くだけ、という本では満足できなくなってきたころ、宮部みゆき作品と出会った。その作品のすべてに共通するのは、普通の人間の姿をできるだけ描こうとする姿勢であり、個々の感情や行動に至るまでの心情であり。時代小説からSFまで、すべてにおいて流れる「宮部みゆきらしさ」を、愛してやまないのである。
あの名作「模倣犯」の続編がこの「楽園」である。しかし、単なる話の続き、というわけではない。大きな事件が立て続けに起こるわけでもない。思わず力がはいるような、緊迫した場面、というわけでもない。
では、この本で感じたことは何かといわれると。
普段、なんの変哲もない平穏な人生を歩んでいても、否応なしに、何かの事件に遭遇し、被害者になったり、加害者になったりする。そして、直接的に被害者や加害者にならずとも、大きな事件であればあるほど、巻き込まれる人はたくさんうまれ、少なからず影響を受け、その後の人生を左右されてしまう。
ただ運が悪かった、仕方なかった、というだけではやりきれない思いと、葛藤。事件に左右されまいと思えば思うほど、事件の記憶から逃れられないと感じ、苦しむ。そして、それはどんなにつらくとも、自分自身でしか乗り越えられない壁であり、障害なのである。
そこから、どう立ち直るか。自分を見つめなおすか。
人を信じられなくなり、人が怖いと思うようになる時もある。けれど、人が温かい、と思うときもあり、誰かに会いたい、と思うときもある。受けた傷は、何かで埋めようとするのではなく。じっと抱えたまま、傷を自分の一部として生きてこそ、人の痛みがわかり、やさしさの意味を知るのかもしれませんね。
宮部 みゆき/文藝春秋/各1,700円/ 9784163262406/9784163263601
別府店 祐保博美