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「わすれんぼうのねこモグ」「モグのクリスマス」

417jflli83l__aa240_ 51xy2b3gyoql__aa240_ ジュディス・カーの新刊が出るなんて!

ジュディス・カーは、あの『おちゃのじかんにきたとら』(童話館出版)の著者です。1923年にベルリンで生まれたドイツ 人ですが、家族はナチスを逃れてイギリスに亡命し、彼女は『ヒトラーにぬすまれた ももいろうさぎ』という絵本でデビューします。日本では評論社から出版されていま したが、今は手に入りません。なので、ジュディス・カーと言えば『おちゃのじかん にきたとら』でした。この絵本のとぼけっぷりとかわいさはちょっと群を抜いている のです。ユニークでレトロでクールでオシャレ。

さてそんなジュディス・カーの新刊『わすれんぼうのねこモグ』。モグというわすれんぼうの猫が主人公です。その上臆病。猫といっても、トトロの森から抜け出してきたかのような不思議なイキモノみたいな感じで、カワイイわけではないのです。
いつも「まったくもう!こまったねこだ!」なんて家族に言われる失敗ばかりのモグ。でもわすれんぼうなので、自分の失敗にも気づいてない様子で、クヨクヨもしません。うらやましいかも。そんなある日の夜、またもや猫ドアを忘れて家には入れなくなったモグは…。

クリスマス版の『モグのクリスマス』の方は、大きなツリーを持って歩いてくるお父さんを見て、木が歩いてると勘違いしたモグ。怖くて屋根に登ってしまい降りて来ません。家族のみんなはモグのいないクリスマスを楽しむことができないのですが…。

ジュディス・カーの絵と言えば、配色センスがとても良いのです。『おちゃのじかんにきたとら』の女の子の髪のリボンの色や、紫のジャンバースカートと青いセーターの微妙な色の組み合わせ。『モグ』の家族のお母さんのタイツの柄や捕まった泥棒の赤いボーダーのTシャツや。
そして、登場人物たちのユニークなクールさもとても不思議です。『おちゃのじかんにきたとら』では、ある日突然お茶の時間に礼儀正しく現れた虎と共にのんびり優雅にお茶をするお母さんと女の子が描かれています。そして、虎が家中の食べ物を食べてしまってから帰宅したお父さんは、怒ることも嘆くこともなく外食のアイデアを出すのです。なんて動じないお父さん。『モグ』では、捕まえられた泥棒までもがお父さんとお母さんと共にお茶をいただいていたり。読んでやった子どもにも、「なんで泥棒と一緒にお茶飲んでるの?」とまず聞かれてしまいました。登場人物たちのこのとぼけてるかのようなクールさは、時代もあるのか、ジュディス・カーだからこそなのか?でも、淡々としていて温かく、そしてオシャレな絵本です。子どもと動物の寄り添う絵がほっとさせます。

トトロの森から現れたようなモグと言えば、我が社の児童書担当マーチャンダイザーも、そんなヘンなイキモノ風。クリスマスの応援、ありがとうございました。

「わすれんぼうのねこモグ」 ジュディス・カー/あすなろ書房/1,470円/9784751525050

「モグのクリスマス」 ジュディス・カー/あすなろ書房/1,470円/ 9784751525074

池袋本店 山井洋子

12月 26, 2007 児童書・ファンタジー |

私の男

Watasi なにか面白いものない?と、職業柄かよく聞かれます。相手はわりと軽いノリで聞いてきているのはわかるのですが、どうしても肩に力が入ります。わかっちゃいるけど、そこで手を抜けないのが業というもの。ただ、なかなかいいものであっても紹介できにくいというのもあります。確かに、おススメして夢中になられてしまうのも(書店員冥利にはつきますが)そんなのが好みだったのかと勘ぐられるのもアレでして、で、困りものです。話の流れでうまい具合にでもならないと、これもおススメですよとはなかなかいえたものではありません。

そして、コレ。「私の男」ですが、心洗われたり、何かを得たり、胸のすくような思いがあったりはまったくしません。かえって最後のシーンなどはもやんとした、なにか、気持ちの「オチ」もつかない、読後感。それは筆力のせいなのかもしれませんが、決して嫌悪感ではなく、血の濃さを思わせながら、鮮明で、なにか線の細い絵を思わせるような描写を感じます。すうっとた清らかさえ感じますが、よくよく考えれば、やはりその線にはしゅっと刀を抜いたような凄みがあり、「男」の指を人形にとえるところなどは、この場面のためにこの小説を書いたのではないか?と思わせるほどでした。

光は闇、闇は光。光だけでは光はなく、闇だけでは闇はないのですね。だから、好きな本です。

桜庭一樹/文藝春秋 /1,575円/ 9784163264301

渋谷店 原田真弓

12月 13, 2007 だから、大好きな本 |

リアル 1~7

Real いままで、何度読み返したことだろう。笑い、泣き、熱中して読んでいた学生のころ。大人になっても、何かあるたびに、読み返して、支え、励ましてくれる存在。元気をもらい、勇気をもらった、不動のNO1マンガ「スラムダンク」(なんたって、自宅のパソコンのスクリーンセーバーがスラムダンク名言集なのです)。数々の名言や名シーンは、いまでも鮮やかによみがえり、まるで会話しているように胸に息づく。その作者、井上雄彦氏からの年に一回のプレゼントが、この「リアル」である。

このリアルでは、車イスバスケットと3人の少年を中心に、圧倒的な現実、絶望、挫折、そして少しの希望が描かれている。人は誰もが、自分が一番不運で、苦労をしてきた、と思いがちであるけれど。この「リアル」で描かれているのは、そんじょそこらの不運や不幸ではない。どれだけ一生懸命に生きようとしても、押し寄せる現実に負けてしまいそうになる。つぶされそうになる。けれど、そこから逃げるべきではないのだと。繰り返し押し寄せる「リアル」から目をそらさず、安易に未来に逃げたりしていては、何の解決もない。自分には目標があるから、今はいい加減でいい、という過ごし方はおかしい。苦しい「今」を生きるからこそ、それが自分の道になる。そして、いつか繋がる自分の道、自分だけのゴールをめざして、どんな環境であっても、死ぬまで続く自分の道を、生きていくのだと、教えてくれる。

言葉でいうほど、簡単なことじゃない、と。自分の道を、ただ「今」という瞬間を、一生懸命に生きるということが、どんなに困難で苦しいか、を同時にこの「リアル」は示す。なぜ、人の心をこんなにも動かす作品を生み出すことができるのか、同時進行の連載「バガボンド」(講談社コミックス)を見ても、井上雄彦氏のすごさには驚くばかりである。そのすべての作品が、読む人の状況、心の在り方によって、響く場所も作る形も変化する。その、読み手が自由に受け取ることのできる、よい意味の空白が、井上作品には存在する。
どれだけ終わりだと思う状況でも、それは先に繋がるはずだ、と。「リアル」を読んで、感じてほしい。

「お前は俺のヒーローだ。いまでもそうだ。」胸に、きます。

井上 雄彦/集英社/各620円(税込)/4088773527

別府店  祐保博美

12月 4, 2007 コミックス |