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股旅フットボール

Matatabi サッカーで気になる試合があると、新聞、雑誌、テレビやネットと、その記事をできる限りすべて確認する。
大体が同じ内容、語り口。しかし、そのうち、「宇都宮徹壱」という名前が目に入るようになる。宇都宮氏の記事・写真は、サッカーの試合のむこうに、開催された国の文化的、社会的な側面までを伝えてくれる。その国に息づくサッカーが、豊かに表現されるのである。

「サッカーはやっぱり海外だよね」「日本代表は好きだけど、Jリーグには興味がないの」「ワールドカップの時だけファンなの」などと、そのような言葉を聞くことがよくある。確かにそういう楽しみもある。けれど、サッカーの楽しみなんて、そんな大きなものじゃなくていい。ちょっと目をやれば、仕事帰りにサッカーをする人がいる。空いたグラウンドと、ボールがあれば成立するコミュニケーション。日本、それも地方で、地域の活性化のためにJを目指してクラブをつくる人々。自分の街を誇りたい、子どもたちに未来をつくりたい、と、クラブのために全力を尽くし、手弁当で始め、会社を興す人々。そんな人々が、Jリーグからみると4番目の「地域リーグ」にはたくさんいる。

その土地特有の、地域性・県民性から、サッカーがどう浸透し、発展していくか。地域と中央との格差が一段と顕著になったと言われる時代を通して、「わが町のクラブ」が、それこそ文字通り「命がけで」Jを目指す姿をこの本で宇都宮氏は描き出す。チームごとに事情は違えど、サッカーを愛する気持ちは、クラブ関係者も選手もサポーターも同じ。常に光の当たるJではなく、影になりがちな地域リーグにこそ、サッカーの面白さは一番あらわれるのではないか。

宇都宮氏の筆力は、故・米原万里も絶賛したほど。サッカーに興味がなくとも、ぜひ手にとって読んでいただきたい。ドキュメンタリー番組12本分のドラマが詰まっている。地域から中央への下剋上の物語をこれから紡いでいくのは、仕事帰りにフットサルをする同僚、休日に草サッカーをする後輩、そしてサッカーボールを大事に抱えて走っていく子どもたちである。

宇都宮徹壱/東邦出版/1,500円/9784809406959

別府店 祐保博美

4月 24, 2008 文芸 |

マドレーヌのメルシーブック

Mad 副題は『いつも おぎょうぎよく いるために』。
作者のベーメルマンス・マルシアーノは、あのマドレーヌちゃんシリーズのベーメルマンスの孫にあたります。

一見おしゃれでお行儀のいいマナーブックのように思われるかもしれませんが、内容にはうならされます。マナーとはうわべだけの形式的なものではなく、まわりの人たちのことを考えたやさしさからくるものだということを教えてくれる絵本なのです。

常に「あいさつ」をしましょうと教育され続けている私たちですが、たとえば学校の校門で「ハヨザイマース」とさえ口にすれば、それでOKです。でも正しいあいさつは、相手の目をちゃんと見て言い、なおかつもっと価値のあるあいさつは”にっこり”すること、と教えてくれます。

誰かがあなたに話しているときには、話し終わるまで聞きましょう。途中で口をはさんではいけません。その人が話し終われば、次はあなたの番です。などなど。恥ずかしがりの私たちは、ついつい形式的なマナーに隠れがちですが、本物のマナーとは正しく強いものなのだと実感させてくれます。江国香織さんの訳も、軽快でウィットが伝わり、この絵本にぴったりと合っています。

「きもちよく せきをゆずる すべての こどもたちに」贈られるこの絵本。小さなレディーたちと、もちろん大きなレディーたちが読んでも、目の醒めるような絵本です。

『ともだち』とともに、店頭の『ともだち♪わくわく!絵本フェア』でご紹介しています。

作:ジョン・ベーメルマンス・マルシアーノ 訳:江国香織/BL出版/1,260円/9784776401247

池袋本店 山井洋子

4月 10, 2008 |

上司のモヤモヤ

4062145472 普段、なんとなく迷ったり考えたりすることだけれど、いざ改まって誰かに相談したり、検索サイトで相談するほどでもない。そんな仕事をしていく上での疑問、なんとなく思ったいろんなことに、片っぱしから答えてくれるこの本。簡単に言ってみれば、ビジネス版「生協の白石さん」ともとらえることができるほど、見ているだけでニヤニヤしてしまう疑問が並ぶ。

『仕事中に眠くなって困る』、『タイピンをダサイといわれた。フィリピンならいいというのか』、『上司のマンションより高いマンションを買うのはご法度ですか?』、『社長が女子ソフトボール部を持ちたいという。なんとかあきらめさせたい』・・・・、といった、実際のビジネス書にはまず掲載されない疑問ばかり。かと思えば、『賃借対照表が読めない』、『自己客観化ができないといわれた』、『残業削減、一方で納期厳守』などといった、切実な疑問もある。部課長ともなれば、立場上言い出せない疑問もあるだろう、と、作者が仕事上で感じた気持ちを示し、解決法を提案しつつ、時には「しっかりしてください」と叱る。どんな疑問に対しても、その答えには、ユーモアとともに鋭い知性が光り、笑いながら読んでいるのに自然と姿勢が正されていく部分もある。

仕事を円滑に進めるためには、無駄と思われる部分こそが一番大事なのではないか、と思わせる。効率化ももちろん大事だろうけどね。

清水佑三/講談社/1,470円/9784062145473

別府店 祐保博美

4月 10, 2008 文芸 |

ともだち

Tomodachi 和田誠さんの絵と、谷川俊太郎さんのひらがなだけの短い言葉とで展開されるやさしい詩画集のような絵本です。夜ベッドで眠りにつこうとしている男の子の絵に、「ともだちって そばにいないときにも いま どうしてるかなって おもいだすひと」の言葉。かえるを持って女の子を追いかける男の子の絵に、「ともだちなら いやがることを するのは よそう」の言葉。

新生活を送る小さな子どもたちに贈るぴったりの絵本だなと読み続けると、個人的な狭い意味での「ともだち」から、言葉の通じない外国の子も、年の離れたおじいちゃんも、お父さんやお母さんも、犬だって「ともだち」、と定義がどんどん広がります。そして、最後の数ページで急に挿入される車椅子の外国の男の子の白黒写真に本当にドキリとさせられます。「あったことがなくても どうしたら このこの てだすけが できるだろう。 あったことが なくても このこは ともだち。」 ボロボロのバラックで床にうつ伏せる小さな子どもの写真の横に、天蓋つきの王子さまのベッドのように豪華な部屋の愛らしい子どもの写真。椅子に丸まって涙を流す子どもの写真。読んでいるこちらも思わず涙があふれます。

どうしたら世界中の人と「ともだち」になれるだろう。小さな子どもたちに夢を託します。

谷川俊太郎・文 和田誠・絵/玉川大学出版部/1,260円/9784472402784

池袋本店 山井洋子

4月 2, 2008 児童書・ファンタジー |

21世紀に生きる君たちへ

21 3月の、ある日。地図を片手に八戸ノ里駅に降りたつ。大阪とはいえ奈良寄りなので、閑静な住宅街。雨に降られ、傘をさしながら、町並みを楽しみ歩いていく。
角をまがると、鮮やかな黄色の菜の花がとびこんできて、そのすがすがしい香りに胸が躍る。そうして辿り着いたところが、「司馬遼太郎記念館」。生前のままに保存された書斎、庭。そして安藤忠雄による小さめながらもすばらしい設計の記念館を、司馬作品への思い出をたどりながら、丹念に見学する。そして、ふと目をむけた壁面には、その文章すべてが掲載された額縁が、かかっていた。

「21世紀に生きる君たちへ」と、司馬さんはわれわれに語りかける。自分には未来がないが、君たちには輝かしい未来がある。そして、自然をおろそかにしてきた人間が、いかに共生すべきかを説き、そして自己の確立の重要さを語る。いままで何度も読んで、本で所有していたにもかかわらず、その記念館で司馬さんとむきあう形で、静かに、ゆっくりと読むことで、ひとつひとつの言葉が胸に染み込む。

たすけあうという気持ち、やさしさ、他人の痛みを感じること。これらは本能ではない。訓練をしてこそ、身につくものである。たとえば、友達が転んだとき、痛かっただろうなぁ、と思う気持ちを、そのつど自分の中でつくりあげていきさえすればよいのだ。この感情を自己に根付かせてほしい、と。

気づけば、恥ずかしながら、記念館の中でハンカチでは間に合わないぐらい号泣してしまっていて、そのこみあげてくる気持ちと向き合うためにかなりの時間を要したほどであった。司馬史観への批判は数あれど、あんなに魅力的にキャラクターや時代を描く作家はほかにはいない。歴史が自分に語りかけてくるという感覚を教えてくれ、時代の流れの一部分として自分がいるのだという考えをもつきっかけを与えてくれた司馬遼太郎という偉大な存在。すべての作品のすばらしさが、この「21世紀に生きる君たちへ」に凝縮されています。ぜひ落ち着いた場所で、時間をかけて読んでください。

司馬遼太郎/朝日出版社/892円/9784255990521

別府店 祐保博美

4月 2, 2008 文芸 |